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※CAUTION※ ・同性愛に関する表現が多々含まれます。 ・閲覧に年齢制限を必要とする類の小説ではありません。 ・「エロがない! ふざけんな!」とか言われるとものすごく困ります。 →NEXT ←BACK ←MENU **** 隣の人と喋ったり、自分が歌う曲を選んだり、それぞれがそれぞれ自由に楽しんでいた。だが、残念ながら守谷は一人ぽつんと俯いていた。親の説教をやり過ごす子供のように微動だにしない。少し計算外だったところはある。打ち上げと言うから、パーティールームでも借りてみんなでわいわいやるものだと思っていたのに、個室に分かれて少人数になってしまった。これではなかなか輪に加わることは難しい。 「御崎、曲入れた?」 「あ、まだ」 「早く入れなよ。御崎の歌聞きたーい」 「俺そんな得意じゃないよ」 原に守谷のことを頼んだものの、席順が悪かった。女子連中が先だって部屋に入ってしまったので、原が非常に動きづらい位置に座ってしまった。それに原に何もかもを押しつけるのは気が引ける。守谷の隣に居る野田にも、期待はできそうもない。 何とかしたい。でも何もしてやることはできない。僕が助けたのでは意味がないから。他の誰かとの繋がりを持って欲しいから。だから僕が手を出してしまえば、それは彼をここに引きずり出した意味がまるでない。心を鬼にする。時々こちらに送られる視線には気付かないふりをしよう。 三十分ほど盛り上がった時、原が立ち上がった。 「ちょっと私お手洗い」 僕に目配せをして、前を通り過ぎていった。ニイタカヤマノボレ。 「あ、あたしも行くー」 「じゃあ私も」 できればいまのうちに原が守谷の近くに座れるようにしたい。 「せ、席替え!」 「なに。どうした御崎」 「ほら、女子とか出る時大変そうだろ? だから入り口側の方が良いんじゃないかな」 不自然極まりない言動だが、野田も川崎もホモサピエンスに満たない知能指数だ。訳の分からない理屈でも強気で押せば適当に乗せられるだろう。 「は? 何で? よくわかんねぇ」 「いいから!」 わかんなかったら従っておけよ。 少々強引ではあったが、何とか席順をそのままスライドすることが出来た。 「ていうか俺女子の隣が良い」 それじゃあ守谷と原が隣になれないんだよ。 仕方がない…… 「……川崎、お前は見ていなかったようだな」 「何を?」 「一番端に座ってた女子」 「橋本?」 「そう橋本。あいつ、座る時スカートを広げたまま座ったんだ」 「つまり?」 「下着が椅子に直」 「いやだなぁ御崎くん君はどうしてこう変態なのかねこのぼくがそんなことでこうふんするとでもおもうかい童貞でもあるまいしたかだかパンツが椅子に直でその温もりがまだのこってるからといって僕がそこにすわってこうふんするわけないじゃないかあははははでもとにかくそうだねべつに席替えをすることに特別反対するつもりはないよだってだからなんだってはなしなわけであってほらべつに席をかえることがなにがどういう悪影響を及ぼすわけでもなし御崎グッジョブいただきます!」 言っておいて、そうなるよう仕向けておいてこういう感情を抱くのは間違っているかもしれないが、彼のことを軽蔑した。ホモサピエンス未満というかサル以下だ。男ってやーね。 戻ってきた女子に訝しまれたが、それぞれの思惑が重なりあって、問題視されることはなかった。 ひとまず僕が出来るのはここまでだ。責務は充分果たされただろう。後は原に任せよう。 「ねぇねぇ、モーリタニアくん」 「………………」 「ねぇってば」 「………………」 「おーい、聞いてる? 人と一緒に居る時はヘッドフォンを外そうよ」 「………………」 「モーリタニアくん?」 「原ちん、アフリカの共和国がどうかしたの?」 「え、なにそれ」 「あーあー、えーっと、もりたにくんもりたにくん?」 「……な、なんですか」 「どうして敬語なの?」 「え、えっと」 「もりたにくんは何を歌う? やっぱりミスチル?」 「いや、ミスチルはよくわからない……」 「じゃあ何にする? でも世の中の歌なんてミスチルかそれ以外かしかないよね。ミスチル・オア・ノット?」 「えっと」 「あ、じゃあさ、今聴いていたのを歌ってよ」 「え」 「貸して貸して」 「だめ……」 「いいじゃん、減るもんじゃなし」 「あ」 「……? あれ?」 「返して!」 守谷の突然の声で場の雰囲気が固まる。カラオケ独特の演奏が虚しく流れる。 守谷は声を出すべきではなかった。静かにしていれば、きっと守谷と原の間で内密に済ます事ができた問題だった。声を上げたせいで注目が集まってしまった。 「? 壊れてる?」 ポケットから引きずり出されたMDプレーヤーを操作する原。その表情は次第に曇りだす。 「これ、ディスク入ってなくない?」 入れ忘れたのか? あれだけ日常的に音楽を聴いていたはずの守谷が今日たまたま入れるのを忘れてしまった? もしも、ヘッドフォンはただのアピールで、音楽なんて聴いていなかったとしたら。それが、彼の日常的な、習慣だったとしたら……? 守谷と目があった。怯える動物の目には涙がにじんでいる。 もしも、万が一ヘッドフォンはただのアピールで、音楽なんて聴いていなかったとしたら。それが、彼の日常的な習慣だったとしたら、彼が聞いていないと思って喋っていた言葉の数々は、 守谷はヘッドフォンとプレーヤーをひったくり、鞄を持って外へ飛び出した。 「もりたにくん!」 誰もが呆然としたまま、ドアが閉まるのを見届けた。 演奏が終わる。 「何あいつ」 「よくわかんない」 「ていうかあの人何で来たんだろうねー?」 「モリタニだっけ? 俺あんましゃべったことねぇわ」 「いっつも休み時間にどっか行く人でしょ? なんか陰気くさいよね。ちょっとキモい」 「原ちゃーん、いじめちゃだめだよォ」 「そんなつもりじゃなかったんだよ。ただ、つまらなさそうにしてたから」 「あー、つーかあいつ金払ってけよなぁ」 「……いいよ、俺が払うから」 うちひしがれていた。 「お、御崎ぃー太っ腹だねエ」 守谷のためになると思っていた。自分の行いは正しい結果を導くと信じていた。自分の物差しで彼をはかれると思い込んでいた。 これが、僕が起こした行動の結果。暴かなくていい物を暴き、与えなくていい印象を創り出してしまった。彼を針のむしろへと突き落とし、踏みつけ、塩を塗りつけた。ただそれだけ。彼のためになったことは、何一つとしてない。 →NEXT ←BACK ←MENU |