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※CAUTION※ ・同性愛に関する表現が多々含まれます。 ・閲覧に年齢制限を必要とする類の小説ではありません。 ・「エロがない! ふざけんな!」とか言われるとものすごく困ります。 ←BACK ←MENU **** それは奇しくも出席番号順になってしまった。体育の授業で野田、御崎、守谷がチームだ。その日の種目はバスケットの3on3。 「いやぁ、御崎が一緒でラッキーだ。な? 心の友よ。パス回せよ」 「俺も野田と同じチームならやりやすいよ。顔面にボール当てても怒らないだろ?」 「怒る」 「心の友よ」 「そんなのは友達じゃねぇ」 「じゃあ影分身で敵全員のマークよろしく」 「そんなのは人じゃねぇ」 「できないのか」 「無理だ」 「諦めたらそこで終了だよ」 「試合が?」 「お前の高校生活」 「がんばります!」 そんな二人のやりとりを聞いていた守谷は思わず笑ってしまう。その頃、御崎と守谷は既に交流があった。とはいえもちろん秘密の関係だ。 「ご、ごめん」 「いや……。お前はてきとーにゴールの下にでも立ってろ」 完全に無視するよりは、こんな風なやりとりのほうが自然だと思う。といより、以前から意識していなかっただけで、このくらいの会話はあったのかもしれない。などと考えると御崎の中にあった罪悪感が再びうずきだす。 それを抑えるかのように、ぽんと守谷の背中を叩いてコートに入った。野田は何も言わず御崎に続く。 御崎はスポーツ万能だった。陸上、球技、水泳、器械体操。何でもそつなくこなせてしまう。そんな中でもバスケットボールは得意な種目だった。 だからこそ運動全般が苦手な守谷と、水泳以外は可もなく不可もない野田と組むことになったのだろう。 守谷にとっては憂鬱でしかない体育の授業も、ほんの少しだけ楽しみが生まれた。 「げ。相手は阪崎のチームかよ」 野田のうめき声にも似た叫びにつられ、御崎も相手チームを見る。確かにそのうちの一人は見覚えがあった。すらっとした背に整った鼻筋。いかにもバスケ部然とした立ち姿の好青年だ。シルエットは細身に見えるものの、まくり上げた体操服の袖から覗く腕には、ぎっしりと筋肉が詰め込まれている。 彼が扱うボールは、重力を感じさせない。手品のようにくるくると周り、彼の手に吸い付くようにバウンドしている。 「他の二人も穴はなさそうだな。ああちきしょー。これは厳しい」 「諦めろ。これは分が悪い」 今日の試合はテストも兼ねている。つまり活躍の如何によって成績も決まる。 御崎と野田というコンビはなかなか強力だった。だが、もう一人のメンバー守谷という穴は決して小さくはない。 普通のバスケならいざ知らず、3on3はメンバーが少ない分、それぞれがそれぞれの役割をしっかりこなさなくてはゴールに繋がりにくい。 たとえこの試合に負けてトップの成績を取れなくても、単位目当ての守谷や、文武両道の御崎にとっては問題にならない。一方勉強面に不安のある野田としてはなんとしても高い評価を得なければならない生命線だ。絶対に負けたくないのだ。 ホイッスルが鳴り、ボールが放たれる。いくら御崎の運動神経が良かったところで、これほどまでに身長とジャンプ力に差が開いていては発揮することができない。 あっさりとボールを取られた。 着地と同時にパスを回し、相手チームはゴールへと一目散に走り抜ける。 なんとかゴールを阻止しようと御崎が駆け寄るが、マークがぴったりと付いていて思うように動けない。 ――しゃらくせぇ 果敢に野田が立ち向かうものの、あっけなくボールはネットに落ちた。 少なくないギャラリーは歓声と落胆の二色に別れていた。 「野田っち何やってんだよ! しっかりカットしろよなぁ」 「うるせェ! 外野は黙ってろ!」 バスケ部のゴールは一点という特別ルールがあるため、次に御崎か野田がゴールを決めれば二点が入り逆転できる。もし守谷がシュートを決めれば三点入るのだが、これには期待できないだろう。 コートの外からボールを投げ、御崎がそれをキャッチした。ドリブルで走りつつ、視界の端で弾丸のように駆ける野田を捉えた。素早くパスを回す。 ディフェンスを振り切って、ボールをゴールへ放つ。 「げ」 「阿呆」 バックボードに当たったボールはリングに弾かれこぼれ落ちた。それを阪崎が音もなく攫い、砲丸でも投げるように反対側のゴールへと投げつけた。 「マジかよ!」 それは重々しい音を立ててバックボードに当り、弾んだ。 「守谷!」 そこには守谷が居た。かろうじてボールを目で追っていたが、それをどうしたらいいのか分からずあたふたとしている。守谷が何とか取れれば御崎にパスを回すことができる。 「守谷取れ!」 「えっ?」 「どけ!」 様々な怒声が守谷にぶつけられる。ぶつけられたのは声だけではなく、 「守谷!」 野田が叫んだ。 相手チームの一人がボールを奪う際、勢い余って守谷にぶつかってしまった。 バランスを崩した守谷はそのまま倒れる。 ホイッスルの音が試合を引き裂いた。 教師と御崎、続いて野田が駆け寄り覗き込む。 「大丈夫か守谷」 「はい、転んだだけですから……」 「足とか捻ってないか?」 御崎が思わず口を出す。 「あ……うん、大丈夫」 手をついて立ち上がり、苦笑いしながら大丈夫であることをアピールした。それを見届けた教師は試合を再開させる。 心配そうに見つめる御崎に対して恥ずかしそうに笑って見せた。 ボールはこちらに回ってきたものの相変わらず厳しい状況に変わりはない。 その後阪崎に再びゴールを許してしまい、以後も防戦一方の苦しい戦いが続いた。刻一刻とタイムはカウントダウンを続けている。 「おい御崎、どうすんだよ」 「黙ってシュート決めろ」 やはり御崎の『得意』と阪崎の『得意』とは全くの別次元だった。 スピードもスタミナもテクニックも、何もかもが負けている。 それはそうか。部活にも入らず、たまに友達とバスケをする程度の人間と、休みもないほど練習を重ねている人間とが同等であるはずがない。 「いやいや、御崎が活躍してくれなかったら意味ないだろ。ゴール直前で俺にパスを回せ」 「何でお前のアシストなんてしなきゃなんねーんだよ」 現在の点差は二点。ここは御崎か野田がゴールを決めて同点にする他ない。バスケ部相手に健闘したということで、成績の方も甘く付けてくれるかもしれない。 「ああ、もう何でもいい。とりあえずどっちかが必ず点を取る。成績に関しては抜きだ。OK?」 野田はぐっと親指を立てる。 その目はぎらぎらと輝いていた。御崎はこんなことに熱くなるなんて下らない、と思ってはいるものの、一方的に負けるのは気持ちの良いものではない。 対する守谷は、遠くからそんな二人のやりとりを眺めているだけだった。 何をしても邪魔になるだけ。『ゴールの下で立っていろ』というのは正しい指示かもしれない。 自分の実力不足については充分理解している。だから決して傷ついたりすることはない。一番辛いのは自分が二人の足を引っ張ってしまうことだった。 ここにいるのが自分でなければ、もっと役に立つ人間だったなら、二人はもっと活躍出来たに違いない。敵のチームとも対等に渡り合えたに違いない。 体育に参加しなければ良かった、と守谷は俯く。体育の単位が危ないので必ずテストに参加するようにと言われ、渋々出てきた。自分の評価が落ちるだけならどんな目に遭っても良い。けれど周りの人間にまで迷惑を及ぼすならば、しかもその相手が他ならぬ御崎だというのなら、単位なんて捨ててしまえば良かった。 望まれずに生まれ、世間体のためだけに生かされてきた。それでいて誰の役にも立てず生きているのなら、生きている意味なんてない。 「バカ!」 御崎の怒号が胸に刺さった。悲観的なことを考えていた自分に喝を入れられたのだろうか。 もちろん実際は違う。阪崎の真似をしてボールを投げたようだ。途中で敵チームのディフェンスに阻まれて大きく勢いを失ってしまった。 しかしボールが取られたわけじゃない。指先をかすめ、ボールは床に落ちた。 跳ねて、転がって、守谷のつま先に当たる。 全員が一斉に守谷めがけて走りはじめる。 考えるまでもないことだ。 やることは一つ。ボールを拾って、狙いを付けて、投げる。 特別ルール。 バスケ部員はゴールが決めると一点。 成績下位グループがゴールを決めると三点。 試合終了のホイッスルが鳴ると、野田は走って守谷に飛びつき、華奢な首に腕を回した。 「守谷ナイス!」 「い、痛いよ野田くん」 御崎は遠くからそれを眺め、笑っていた。 守谷もそれを返した。 ほんの短い時間のことだった。御崎と野田と守谷の、三人の記憶。ささやかな思い出。 風に揺れるろうそくの火のようにか細い記憶。 そんな記憶を守谷が野田に語り、そして野田は御崎に語った。 不思議なもので、忘れていたはずの記憶は時にわき水のようによみがえる。 忘れていたことが不思議なくらい、鮮明に。 守谷はもういない。三人で新しい記憶を重ねることはもうできない。 三人の目には見えない繋がり。触れることはもう出来ないけれど、それは今でもたしかに続いているのだった。 たとえばそれは守谷のつなぎとめた関係だったり、守谷が守ってくれた命だったり。 二人にとって、かけがえのない大切なものをつなぎとめてくれた。 たとえどんな記憶に埋もれてしまっても、二人はずっとずっと忘れない。胸の中にしまってあるのだから、ふとした時に思い出せる。 細くて柔らかい、絹糸のような黒髪。 病弱そうな白い肌。 触れれば折れそうなほど華奢な体。 自信がなさそうな声。 泣きそうな笑顔。 彼にはちょっと不釣り合いなヘッドフォン。 守谷恭司というそのひとを。 ←BACK ←MENU |